設立趣旨書

1.趣旨

阪神淡路大震災を経験した神戸市は、介護保険制度の導入時、全国でも珍しい市民目線の取り組み(介護保険テレフォンの設置、介護保険と消費者保護の連携など)を展開するとともに、婦人団体や消費者団体は、一人暮らしの高齢者だけでなく、高齢者夫婦世帯も対象にした地域の見守り活動を通して、消費者被害の早期発見と被害拡大の防止に寄与してきた。そうした地域活動の実績をもとに、消費者庁の支援を受けてスタートした神戸コンシューマー・スクール(KCS)でも、2010年から本澤巳代子(当時・筑波大学人文社会科学研究科法学専攻教授、現在・筑波大学名誉教授)が講義「高齢者と介護保険」を担当するとともに、2013年度に担当したゼミでは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)と消費者保護をテーマに、高齢者住まい法の学習とともに、実際にサ高住や有料老人ホームなどを見学したり、パンフレットや契約書などを集めたりして、市民目線での高齢者の住まいと暮らしの研究を開始した。

KCSのプロジェクトが2013年度に終了した後、KCSを修了した消費生活マスター有志が、本澤に研究指導を依頼し、2014年6月にKCS介護問題研究会(後の消費生活マスター介護問題研究会)の活動をスタートさせた。当初は、2013年度の本澤ゼミで扱ったサ高住の調査・研究の成果として、消費者保護の観点から市民目線でチェックリストを作成し、神戸市のホームページを使って公表するとともに、具体的な事例を使ってチェック項目や専門用語を解説するブックレットを手頃な値段で販売することで、一般市民のサ高住選択や契約締結に資することを目指した。具体的には、サ高住の見学時に使用するチェックリスト(本人用と付添人用)、契約締結時の契約書・重要事項説明書の項目を確認するためのチェックリスト、退去や住み替えの際に確認すべき項目のチェックリストなどを随時作成するとともに、神戸市の消費生活講座や出前講義で、一般市民に分かりやすい解説を行うなどしてきた。また、介護保険の地域ケアシステムにおけるサ高住や自宅の位置づけと共に、地域における高齢者の居場所の実態を知るため、神戸市を中心にNPO法人等の居場所や子どもカフェなど、多くのNPO法人の地域活動の調査も行ってきた。今後も、これまでの活動を継続しつつ、神戸市を中心とした活動にとどまることなく、阪神地域など他地域への広げていきたいと思っている。

消費生活マスター介護問題研究会のメンバーには、神戸市の住まい相談の担当者、市民後見人、行政書士・社会福祉士、2級建築士、社会保険労務士などの資格を有する者もおり、日頃から地域住民の相談・支援活動に関わってきた。また、研究会メンバーには、尼崎市・伊丹市・大阪市など神戸市以外の在住者がいるだけでなく、神戸市を定年退職した元職員も活動に参加するようになった。それゆえ、KCSを修了した消費生活マスターに限定することなく、高齢者の住まいと暮らしに関する法律や実態に関心を有する市民のために、学習機会を確保することが必要であると感じるようになった。
その上で、その学習効果を地域社会に還元するため、高齢者とその家族に市民目線の学習機会を提供したり、具体的な情報提供や相談・支援などを展開したりすることが必要である。そのため、社会的にも認められた公的な組織にしていくことが最良の策であると考えた。また、当団体が営利目的ではなく、学習意欲・地域貢献意欲の高い多くの市民に参加してもらうためにも、特定非営利活動法人格を取得することが最善であると考えた。

法人化することによって、さらに組織を発展させ確立させることができ、将来的に高齢者の人格・人生観を尊重した住まいと暮らしの実現に寄与するとともに、「介護の商業化」ではなく「介護の社会化」に貢献できるものと考えている。

2.申請に至るまでの経緯

2014年 6月 KCS介護問題研究会第1回開催
原則として毎月1回の研究会開催、随時サ高住・有料老人ホーム見学
2015年10月 『サ高住の探し方』(全55頁)を信山社から出版
2017年 2月 『サ高住の決め方~より良い住まい契約のために~』(全54頁)を信山社から出版
2017年 7月 本澤と研究会メンバー有志4名でドイツの高齢者住宅・入所施設、消費者センターなどを訪問調査
ドイツに研究滞在していた冷水登紀代(当時・甲南大学法科大学院教授、現在・中央大学法科大学院教授)も調査に参加し、2017年9月から研究会に参加
2018年 3月 『ドイツにおける高齢者支援 調査報告書』(全96頁)を神戸市の支援で公表
2019年 2月 『サ高住の住み替え方~変化に応じて住み替える~』(全56頁)を信山社から出版
2022年 5月 『高齢期の住まいとリスク~自宅に住み続けるために~』(全55頁)を信山社から出版
2022年10月 消費生活マスター介護問題研究会100回記念研究会・祝賀会
2023年 1月 研究会メンバー間で特定非営利活動法人化の意思確認
2023年 4月 消費生活マスター介護問題研究会10周年記念研究会
2023年10月 設立総会開催

2023年10月14日

特定非営利活動法人高齢者の住まいと暮らし研究センター
設立代表者 本澤 巳代子